沖縄県の各地には琉球石灰岩地などを中心に数百以上もの洞窟があるといわれています。記録がある洞窟のまわりに別の洞窟が口を開けていることもあり、報告されていない洞窟も少なからずあるようです。これらの洞窟には、暗黒の空間に適応した洞窟性の生物がすんでいます。そのなかでもクモのなかまには、完全に目が退化したオキナワホラアナヤチグモや目のある無しが洞窟によって違うオヒキコシビロザトウムシなど、特異なものがいくつも知られています。
目の無いタイプのオヒキコシビロザトウムシ
目のあるタイプのオヒキコシビロザトウムシ
洞窟内部のようす
洞窟の入口にみられるヤチグモのなかま
洞窟の奥にすむオキナワホラアナヤチグモ
洞窟の入り口
沖縄の洞窟生物のなかでも代表的なもののひとつにウデナガマシラグモがあります。このクモは沖縄島をふくむ周辺の島々と八重山諸島にかけて分布し、とくに沖縄島では各地の洞窟にみられます。体色には濃い褐色から灰色、白色まで個体変異があり、こうした体色の色味や濃淡、模様の入り方には洞窟によって傾向が異なることがあり、すばらしく白い個体ばかりが見られる洞窟もあります。またこのクモは、個体によって目が縮小したり、目の数が少なくなる/無いなどの変異も見られます。白色の個体に目の数が少ない/無いなどの退化(進化?)傾向が多く見られますが、一部の洞窟ではとびきり黒い体色なのに目の退化した個体が見つかったこともあります。
先日、私は沢沿いの土手に人が掘った2mほどの小穴にこのクモがいるのを見つけました。このクモが好むような暗がりは、探してみると岩場の割れ目のおくや土壁が崩れた場所、大木の樹洞のなかなど結構あり、洞窟外部でも広く生活しているのかもしれません。しかし、洞窟外で見つかる個体には今のところ白化したり眼の退化した個体は見られていません。わかっていないことも多く、遺伝子解析などの詳細な研究はこれからですが、各洞窟の成り立ちや洞窟外部との移動交流のちがいによって、このクモは洞窟ごとにさまざまな進化をしている可能性があると私は考えています。
目の退化がすすんだウデナガマシラグモ
(沖縄市産)
沢沿いの小穴(人工)で確認された個体
(大宜味村産)
正常な目の個体(中城村産)
正常な目の個体(石垣市産)
正常な目の個体(浦添市産)
目の縮小するなど退化傾向が見られる個体
(本部町産)
目の縮小するなど退化傾向が見られる個体
(宜野座村産)
目の縮小するなど退化傾向が見られる個体
(うるま市産)
※注意書きがないものはすべて自然洞窟で確認したものです
洞窟は地上から隔絶された空間であり、暗黒で草木も育ちませんし、えさとなる有機物が外部から供給されることも基本的にはありません。そのため、洞窟をねぐらとするコウモリは、洞窟生物がえさとする有機物(コウモリの糞(グアノ))の供給者として生態系にとって大事な存在です。開発によって洞窟周辺の森がなくなると、森の昆虫をえさとするコウモリが減り、その結果として洞窟の生態系が衰退してしまう可能性が高いことについてはあまり知られていません。ウデナガマシラグモなどの洞窟の生き物を守るためには、地域の自然環境と一体で保全する方策を考えていきたいものです。
日本蜘蛛学会会員・(株)沖縄環境保全研究所 西山 桂一
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