鹿谷さんの生きものコラム

おじぎは3段階の水ポンプ -オジギソウ-

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植物と動物のちがいって何だろう?たぶん、動物は動くけれど、植物は動かない、と答える人は多いんじゃないかな。たしかに、足を使ってのしのしと歩くような植物はいない。でも、花のつぼみが開いたり、アサガオが柱に巻きついたり、ヒマワリの花が太陽の方を向いたりするように、実は植物も、自分の体を動かしている。ただ、その多くは、見ていてもわからないくらいゆっくりだ。

そんな植物の中で、目に見える速さで動くのが、オジギソウだ。これは、オジギソウが、動物のひじやひざみたいに、関節(かんせつ)の役割をする部分をもっているから。この関節にあたる部分を葉沈(ようちん)と呼んでいる。

オジギソウには葉沈が3段階ある。細かい葉を小葉(しょうよう)といって、この1枚1枚の付け根が小葉沈(しょうようちん)。小葉が羽のようなひとまとまりの形になって、その羽の付け根にあるのが副葉沈(ふくようちん)。さらに、4つの羽がついた枝(葉柄(ようへい)という)の根元にあるのが主葉沈(しゅようちん)だ。

葉沈の中には水が入っていて、実は水ポンプになっている。何かが葉っぱにさわると、葉沈の片側の水が、反対側に移動する。すると、葉沈の一方がふくらみ、もう一方がしぼむので、葉はしぼむ側へとかたむくように動く。この動きは植物としてはとても速く、数秒しかかからない。葉がとじてから20?30分すると、水はゆっくりと戻っていき、葉は元の形に開く。

葉にさわるのがほんの少しだと、小葉沈しか動かない。もう少し強くさわると、副葉沈も動く。もっと強くさわると、主葉沈も動いて、葉のついた茎(くき)の全体が下を向いてしまう。こうして葉をとじるのは、虫や鳥が来ても葉を食べにくくするためとか、強い風や雨から葉を守るとか、夏の光が強すぎる時に光を受ける量を調節(ちょうせつ)しているのではないかと考えられている。また、夜に葉が閉じるのは、水分が蒸発(じょうはつ)しすぎないようにするためらしい。

オジギソウはミモシンという成分を持っていて、近くの他の植物が育ちにくくなったり、動物が食べると中毒(ちゅうどく)をおこすこともある。沖縄では道ばたにふつうに生えているけれど、なかなかすごい植物だよね。みんなも、どんなふうにさわると動くのか、どれくらい速く動くのか、ぜひ確かめてみてね。

参考資料:
土屋隆英‚ 2001. 植物の運動 -オジギソウの運動を中心として-. ソフィアサイテック No.12.
神澤信行‚ 2007. オジギソウはどうしておじぎをするのか?. 化学と教育‚ 55(10) : 506-507.

小さな虫が、大きな木をたおす? -アカギヒメヨコバイ-

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アカギという木はわかるかな。あたたかい地域に育つ木で、石灰岩地に多い。樹皮(じゅひ)や材木が赤っぽいので「赤木」という名がついた。沖縄では織物(おりもの)の染料(せんりょう)に使われたりする、なじみのある木だ。首里の金城町には、戦争を生きのびた有名な大アカギがあって、なんと幹の回りが7.6m!地域のシンボルになっている。

ところが、2019年6月に、那覇で街路樹(がいろじゅ)のアカギの葉が茶色く枯れているのが見つかった。木の下にとめてあった車には、小さな虫のふんがたくさんこびりついていた。それでいろいろ調べたら、ヨコバイという小さな虫がアカギについて増えていることがわかった。それが、このアカギヒメヨコバイだ。

このヨコバイは、成虫でも体長4mmという、とても小さな虫だ。口にある針を葉っぱや木にさして、植物の汁を吸う。たくさんのヨコバイに吸われると、葉っぱは茶色くなって枯れてしまう。これまで沖縄では見られなかったので、新しくやって来た虫だと考えられているけれど、どこからどうやって来たのかはわかっていない。2020年の段階では、那覇市や名護市でアカギの葉が枯れているのが見つかっていて、まだ離島には広がっていないようだ。でも、いろいろなものや人の行き来があれば、やがて広まる可能性がある。

首里の大アカギは国の天然記念物だし、市町村指定の天然記念物のアカギは沖縄の各地にある。大木になる木は、昔から地域の人々に親しまれてきた大事な自然だね。もちろんヨコバイだって自然の生き物だけど、新しく入ってきた「移入種(いにゅうしゅ)」は、そこに天敵がいなかったり、餌がたくさんあったりすれば、急に増えて自然のバランスをくずしてしまうことがある。沖縄の各地で、アカギの木が枯れていないかどうか、自分たちの地域のアカギは大丈夫か、ぜひみんなの目でチェックしてほしいんだ。

参考資料:
大川智史・林将之‚ 2016. 琉球の樹木. 文一総合出版.
琉球新報2020年6月12日「天然記念物「首里金城の大アカギ」害虫ヨコバイ被害 枝も切れず那覇市苦慮」

貝とチョウのふしぎな関係 -ツマベニチョウ-

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白いはねの先があざやかなオレンジ色の、とてもきれいなツマベニチョウ。モンシロチョウと同じシロチョウ科で、この仲間では世界でも大きい種類のひとつだ。熱帯(ねったい)などあたたかい地域にいて、日本では九州の南部と沖縄に見られる。大宜味村と竹富町では、それぞれ村蝶・町蝶というシンボルなんだ。よく、ハイビスカスなどで花の蜜(みつ)を吸っているよ。

そんなツマベニチョウだけれど、実は2012年、びっくりするようなことが発見された。この蝶のはねから、海に住む巻貝が持つ毒(どく)と同じ成分が見つかったんだ。沖縄の海にはイモガイという巻貝の仲間が何種類もいる。イモガイは毒針をもち、小さな生き物や魚を刺して麻痺(まひ)させて食べてしまう貝だ。人が刺されても大変なことになるので、中には「ハブ貝」なんて呼ばれて恐れられている種類もあるよ。そんな貝と同じ毒を、なぜチョウが持っているんだろう?

それは、ツマベニチョウの幼虫が食べるえさに秘密がある。ツマベニチョウの幼虫は、ギョボクという植物の葉を食べる。ギョボクは漢字では「魚木」と書く。材木がやわらかいので加工しやすく、イカつりなどの時に使う疑似餌(ぎじえ)を作るのに使われたので、こう呼ばれるようになったんだ。そのギョボクは、アルカロイドという毒成分をもっている。ツマベニチョウはこれをイモガイと同じ毒に変化させて、幼虫の体や成虫のはねにためているようだ。毒があれば、天敵(てんてき)にねらわれにくくなる。鳥に食べられてしまうこともあるけれど、このチョウを食べる時には体だけ食べて、はねを残すそうだ。ちなみに、人がこのチョウをさわるぶんには大丈夫。食べなければね。

幼虫の食べる植物(食草)が決まっているチョウはほかにもあって、オオゴマダラの幼虫はホウライカガミを、マダラチョウの仲間の幼虫はガガイモ科の植物を食べる。そして、ホウライカガミもガガイモ科も、アルカロイドを持っている。こうしたチョウは、植物の毒を使って身を守っているんだよ。

参考資料:
Bae‚ N. et ai.‚ 2012. Peptide toxin glacontryphan-M is present in the wings of the butterfly Hebomoia glaucippe (Linnaeus‚ 1758) (Lepidoptera: Pieridae). PNAS‚ 109(44) 17920-17924.
くまのみ自然学校「鮮やかなオレンジ色が目立つモンシロチョウの仲間・ツマベニチョウ」

生きものの名前のはなし

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生きものの名前って、いろいろあるよね。沖縄でジューミーと呼ばれているのが、図鑑にはアオカナヘビと書いてある。さらに、Takydromus smaragdinus なんて、アルファベットで書かれたむずかしい名前ものっていたりする。これを整理すると、

学名は難しいけれど、これがわかると世界中の論文や情報を調べることができる。研究するときに、なくてはならない名前なんだ。ラテン語は、英語やフランス語などヨーロッパの多くの言語の元になった言葉で、生きものの特徴を現す単語や、生きものが発見された場所や、見つけた人の名前が学名に使われることもある。その意味を調べるのもおもしろいよ。ちなみに、カナヘビ属を意味する Takydromus は「すばやい走り」、smaragdinus は「エメラルドグリーンの」という意味なんだって!

参考図書:
Jaeger, E. C., 1966. A source-book of biological names and terms (third edition, fourth printing). Charles C Thomas Publisher, 323pp.

絶滅危惧種のはなし

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絶滅危惧種って、数が少ない貴重な生き物のことだっていうのは分かるかな?これには、実はいろいろな段階があるんだ。

研究者は、生きものの数が少なくなってきたことに気づくと、その生き物が見つかる範囲の広さや、住んでいる環境の様子、数の減り方の速さなど、いろいろな調査をする。そして、数が減っていることをみんなに知らせて守った方が良いと思ったら、絶滅危惧の危険性がどの程度かを総合的に考えて、段階が決められる。これは定期的に見直されて、生きものの数が増えたり減ったりすれば、そのたびに段階が見直されるんだ。

また、絶滅危惧種を集めたリストを「レッドリスト(RL)」や「レッドデータブック(RDB)」と呼ぶ。世界では、国際自然保護連合(IUCN)が作るレッドリストがある。また日本では、環境省が作るレッドリストや、都道府県がそれぞれに作るレッドデータブックがある。沖縄県でも、いろいろな動物・植物についての「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)」が発表されているよ。


外来種のはなし

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大昔、沖縄の島々は、大陸とつながったり離れたりを何度かくりかえしてきたと考えられている。しかも、つながっていた時代や期間が、島によって違う。つながっているときは、大陸からいろいろな動植物が渡って来るけれど、切り離された島にはやって来ない。切り離された島では、陸上の動植物が独自に進化をして、少しずつ違う種類になっていく。沖縄の島々で、例えば沖縄島にはアオカナヘビ、宮古島にはミヤコカナヘビ、石垣島にはサキシマカナヘビというように、とてもよく似ているけれどちょっとだけ違う、という種類が見られるのは、こうした島の歴史を示しているんだ。

さて、生きものが自分で移動して住む場所が変わったり、たねが運ばれたりして、新しい土地で暮らすようになることがある。そうした生きものの広がりは、自然なことだね。でも、特にこの100年くらいの間、人間が作った車や船や飛行機が世界中を動き回るようになった。そうすると、自然に生きものが広がるのとは比べ物にならないくらいの速さで、違う地域の生きものが様々な土地に運ばれるようになったんだ。こうした人間の活動のせいで、今までいなかった土地に新しく入り込んだ生きものを外来種と呼んでいる。

外来種は、本当はその土地にいないはずの「不自然な生きもの」だよ。よその生きものが、何かの目的でわざと持ち込まれり、車や船などにまぎれて運ばれたとしよう。新しい場所で、住みかやエサが見つからなかったり天敵がいたりして、生きていけないときは、その生きものはやがて消えていく。でも、そこで生き残って子孫を増やすことができたとき、私たちは初めて「あ、外来種が増えてきた!」と気がつくんだ。だから、外来種そのものは別に悪者ではないよ。でも、沖縄のような周りを海で囲まれた島々では、島ごとにいろいろな生きものの歴史がある。もともと島に住んでいた生きもの(在来種)や、世界でその島でしか見られない生きもの(固有種)がたくさん生きている。そこに外来種がやってくると、在来種や固有種の住みかやエサが奪われて、島の生態系が崩れてしまうんだ。そして固有種が、やがて絶滅危惧種になってしまうこともある。

国際自然保護連合(IUCN)が「世界の侵略的外来種ワースト100」、日本生態学会が「日本の侵略的外来種ワースト100」というリストを作っている。これは、外来種の中でも、特に元々の自然や人の暮らしに大きな影響を与える外来種を選んで、注意を呼びかけているものだ。また、環境省が定めた「特定外来生物」については、国内での飼育や栽培、移動などが禁止されている。例えばグリーンアノールは、「日本の侵略的外来種ワースト100」で、しかも「特定外来生物」にも指定されている。

沖縄島のやんばるでは、固有種のヤンバルクイナを守るために、外来種のフイリマングースの駆除が行なわれているね。外来種の命が、固有種の命よりも軽いわけではないよ。でも、駆除をして外来種の数を減らすことは、世界でここだけにしかない元々の島の自然と生きものを守り続けていくために、必要なことなんだ。今、やんばるでは人が捨てたペットの猫や犬も増えてしまって、問題になっている。猫や犬は、人と一緒に暮らすように育てられた生きものだから、急に山の中に放り出されたら困る。やんばるの固有種たちも新しい天敵が増えて困る。私たちも猫や犬を駆除しなければならなくなる。こんなふうに、生きものの命をお互いにうばわないですむように、島によその生きものを持ち込まないこと!飼っているペットを絶対に放したり捨てたりしないこと!が大切なんだよ。


鹿谷麻夕 (シカタニ・マユ  しかたに自然案内)
東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばで海に興味を持ち、1993年に沖縄へ。以後、サンゴ礁の生物を学ぶ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の自然ガイドと環境教育を始める。2015年より、生物多様性地域戦略事業の広報資料作成、イベント・ワークショップの運営を担当する。しかたに自然案内代表。
鹿谷麻夕