鹿谷さんの生きものコラム

セミはいつ鳴く?

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夏の虫の代表といえば、セミ。日本には36種(しゅ)、沖縄県にはこのうち19種がいるといわれている。種数で見れば半分いじょうだ。夏、朝早くからセミの鳴き声に起こされる人も多いんじゃないかな。鳴いているセミは全部オスで、メスは鳴かないよ。オスのセミが鳴くのは、遠くにいるメスに向かって、自分の強さやかっこよさをしめすためなんだね。オスは、メスに自分の声をちゃんととどけたい。でも、色々なセミが一度に鳴いたら、よく聞こえなくなりそうだね。

セミは、あらわれる時期が種によって少しずつずれている。だけど、7月ごろは多くのセミが同時に見られる。そこで、セミたちは、どうやら「鳴く時間」をずらすことで、自分の鳴き声をメスにとどきやすくしているらしい。

センダンやホルトノキに集まるクマゼミは、朝早くから、ワシワシワシと大合唱(だいがっしょう)を始める。でも、昼ごろまでに鳴きやんでしまう。リュウキュウアブラゼミは午前中から鳴くんだけれども、鳴き声の大きいクマゼミが近くにいると、午後からよく鳴くようになるそうだ。

同じ種類のセミの鳴き声にも、実はいくつかの鳴き方がある。よく聞く鳴き声は、遠くにいるメスへの「本鳴き」。これが近くのメスをさそうときは、「さそい鳴き」というべつの鳴き方になる。他のオスの鳴き声をじゃまするかのような「じゃま鳴き」もあるし、休んでいる時間に急に短く鳴く「ひま鳴き」はアブラゼミに多い。そして、何かにおそわれそうになった時の「悲鳴(ひめい)」。クマゼミをつかまえようとして、ギャーという大きな音を出したら悲鳴だ。これを聞いたまわりのセミは、にげてしまうよ。セミの声も、時間や鳴き方に気をつけて聞いてみると、新しい発見がありそうだね。

参考資料:
林 正美 監修・佐々木 健志 他 著,2006.沖縄のセミ.新星出版.

スズメはどこへ行った

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茶色い頭、白いほっぺたに黒いはん点でチュンチュン鳴くスズメは、日本中どこでも見られる、とても身近な鳥だね。ところがさいきん、スズメがへってきている?という話があるんだ。

理由はいくつか考えられる。一つは、田んぼや空き地がへったこと。お米を育てる田んぼは、スズメにとって大事なえさ場だ。だから、スズメは農家さんにとってはやっかいな鳥なんだ。農業機械(きかい)のおかげで、田んぼに落ちる「もみ」がへり、スズメのえさが少なくなってしまったのかもしれない。まちの中では、空き地の草はらでえさをさがしていたけれど、さいきんはアルファルトになってちゅう車場になったりして、えさ場がへっている。また、夜のねぐらになる場所がへってしまったり、カラスがふえてスズメが生きにくくなったりしているのかもしれない。スズメは30年前の半分以下、60年前とくらべたら10分の1ぐらいにまでへってしまったかもしれないというんだ。

日本だけではない。イギリスの農地では、イエスズメが40年前の4割(わり)くらいにまでへってしまい、都市部ではほぼ見られなくなった。えさ場やねぐらがなくなれば、巣(す)を作って子どもを育てることがむずかしいね。そうして気がついたら、ふつうにいた鳥が見られなくなっていた、ということらしい。

ふつうに見られる生き物がへると、生き物同士のつながり「生態系(せいたいけい)」の大事ななかまが、1つかけてしまうことになる。そうなると、自然(しぜん)のしくみがかわってしまうね。みんなも、ふつうにいた生き物が昔と今とでかわってきていないか、まわりの大人に聞いたり、自分でたしかめたりしてみてね。

参考資料:
三上 修,2009.日本におけるスズメの個体数減少の実態.日本鳥学会誌,58(2): 161-170.
沖縄野鳥研究会 編,2002.沖縄の野鳥.新報出版.

つめものだった?シロツメクサ

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江戸(えど)時代、日本では自由に外国と商品の取り引きをすることができなかったのだけれど、長崎(ながさき)ではオランダの船との取り引きがゆるされていた。オランダからは、当時の日本にはない様々なものが来たけれど、その中にガラスでできたものもあった。でも、長い船旅でわれないように運ぶのはたいへんだ。しかも、発泡(はっぽう)スチロールなど今使われているような梱包材(こんぽうざい)はない。当時、木箱のすきまをうめるつめ物には草が使われた。それが、シロツメクサが日本に持ちこまれたはじまりではないかと言われているんだ。その後、ぼく草などとしても入ってくるようになり、日本に定着していった。花のかんむりを作ったり、四つ葉のクローバーをさがしたりして、今ではわたしたちになじみの深い植物だけど、日本に来てまだ二百年もたっていない外来種だったんだね。

実はシロツメクサはマメのなかまで、タネはさやに入っているんだ。マメのなかまの根っこには、根粒菌(こんりゅうきん)という菌(きん)がすみついている。根粒菌は空気中の成分(せいぶん)を肥料(ひりょう)にかえてくれる、植物にとってはとてもありがたい菌だ。だからシロツメクサは、土の中に肥料が少なくてもよく育つ。つまり、あれた土地に緑を生やしたい時には、とても役に立つ植物なんだ。でも、そのぶんすぐふえてしまうから、空き地のような場所にこれが生えると、在来(ざいらい)の植物をおしのけて、シロツメクサばかりになってしまったり、問題になることもあるんだよ。

参考資料:
国立環境研究所:侵入生物データベース「シロツメクサ」
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80160.html

ふえてる?へってる?島のオオコウモリ

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沖縄の夕ぐれ時、カラスくらいの大きな黒いかげがひくい空を横切ったら、それはたいてい、クビワオオコウモリだ。クビワオオコウモリは沖縄のほとんどの島にいるけれど、島によって色や大きさが少しちがっていて、沖縄諸島(しょとう)にいるものはオリイオオコウモリ、大東諸島にいるものはダイトウオオコウモリ、宮古諸島と八重山諸島にいるものはヤエヤマオオコウモリとして区別されている。ダイトウオオコウモリは小さな島にわずかな数しか見られないので、環境省(かんきょうしょう)は絶滅危惧IA類(ぜつめつきぐIAるい)に指定している。台風が来てえさの植物がいたんだり実が落ちてしまったりたりすると、えさが足りなくなって数がへりやすいんだ。

ところがさいきん、沖縄島では、オリイオオコウモリの数がふえているのではないかといわれている。そこで、やんばるの森と中南部のまちの中でコウモリの数を調べたところ、どちらも最近の10年間で3倍くらいまで数がふえているらしいことがわかった。

その理由として考えられたのが、台風だ。実は2005年以降(いこう)、沖縄島に近づいた台風の数はへっている。台風が来なければ、植物がかれたり実を落としてしまうことがないので、オオコウモリは食べ物にこまることなく、子育てをすることができる。

台風は、温暖化(おんだんか)のえいきょうで、発生する場所や進路、数や強さがこれからもかわるかもしれない。もし立てつづけに強い台風がやってきたら、オオコウモリのなかまは数をへらしてしまうだろう。温暖化は人間の活動のせいだから、やっぱりわたしたちのくらしがオオコウモリの数にえいきょうしているんだね。

参考資料:
中本 敦 他,2011.沖縄島で近年見られるオリイオオコウモリ Pteropus dasymallus inopinatus の個体数の増加について.保全生態学研究,16:45-53
中本 淳 他,2009.沖縄諸島におけるオリイオオコウモリの分布と生息状況.哺乳類科学,49(1): 53-60. 熊谷 さとし 他,2002.コウモリ観察ブック.人類文化社.

生きものの名前のはなし

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生きものの名前って、いろいろあるよね。沖縄でジューミーと呼ばれているのが、図鑑にはアオカナヘビと書いてある。さらに、Takydromus smaragdinus なんて、アルファベットで書かれたむずかしい名前ものっていたりする。これを整理すると、

学名は難しいけれど、これがわかると世界中の論文や情報を調べることができる。研究するときに、なくてはならない名前なんだ。ラテン語は、英語やフランス語などヨーロッパの多くの言語の元になった言葉で、生きものの特徴を現す単語や、生きものが発見された場所や、見つけた人の名前が学名に使われることもある。その意味を調べるのもおもしろいよ。ちなみに、カナヘビ属を意味する Takydromus は「すばやい走り」、smaragdinus は「エメラルドグリーンの」という意味なんだって!

参考図書:
Jaeger, E. C., 1966. A source-book of biological names and terms (third edition, fourth printing). Charles C Thomas Publisher, 323pp.

絶滅危惧種のはなし

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絶滅危惧種って、数が少ない貴重な生き物のことだっていうのは分かるかな?これには、実はいろいろな段階があるんだ。

研究者は、生きものの数が少なくなってきたことに気づくと、その生き物が見つかる範囲の広さや、住んでいる環境の様子、数の減り方の速さなど、いろいろな調査をする。そして、数が減っていることをみんなに知らせて守った方が良いと思ったら、絶滅危惧の危険性がどの程度かを総合的に考えて、段階が決められる。これは定期的に見直されて、生きものの数が増えたり減ったりすれば、そのたびに段階が見直されるんだ。

また、絶滅危惧種を集めたリストを「レッドリスト(RL)」や「レッドデータブック(RDB)」と呼ぶ。世界では、国際自然保護連合(IUCN)が作るレッドリストがある。また日本では、環境省が作るレッドリストや、都道府県がそれぞれに作るレッドデータブックがある。沖縄県でも、いろいろな動物・植物についての「改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)」が発表されているよ。


外来種のはなし

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大昔、沖縄の島々は、大陸とつながったり離れたりを何度かくりかえしてきたと考えられている。しかも、つながっていた時代や期間が、島によって違う。つながっているときは、大陸からいろいろな動植物が渡って来るけれど、切り離された島にはやって来ない。切り離された島では、陸上の動植物が独自に進化をして、少しずつ違う種類になっていく。沖縄の島々で、例えば沖縄島にはアオカナヘビ、宮古島にはミヤコカナヘビ、石垣島にはサキシマカナヘビというように、とてもよく似ているけれどちょっとだけ違う、という種類が見られるのは、こうした島の歴史を示しているんだ。

さて、生きものが自分で移動して住む場所が変わったり、たねが運ばれたりして、新しい土地で暮らすようになることがある。そうした生きものの広がりは、自然なことだね。でも、特にこの100年くらいの間、人間が作った車や船や飛行機が世界中を動き回るようになった。そうすると、自然に生きものが広がるのとは比べ物にならないくらいの速さで、違う地域の生きものが様々な土地に運ばれるようになったんだ。こうした人間の活動のせいで、今までいなかった土地に新しく入り込んだ生きものを外来種と呼んでいる。

外来種は、本当はその土地にいないはずの「不自然な生きもの」だよ。よその生きものが、何かの目的でわざと持ち込まれり、車や船などにまぎれて運ばれたとしよう。新しい場所で、住みかやエサが見つからなかったり天敵がいたりして、生きていけないときは、その生きものはやがて消えていく。でも、そこで生き残って子孫を増やすことができたとき、私たちは初めて「あ、外来種が増えてきた!」と気がつくんだ。だから、外来種そのものは別に悪者ではないよ。でも、沖縄のような周りを海で囲まれた島々では、島ごとにいろいろな生きものの歴史がある。もともと島に住んでいた生きもの(在来種)や、世界でその島でしか見られない生きもの(固有種)がたくさん生きている。そこに外来種がやってくると、在来種や固有種の住みかやエサが奪われて、島の生態系が崩れてしまうんだ。そして固有種が、やがて絶滅危惧種になってしまうこともある。

国際自然保護連合(IUCN)が「世界の侵略的外来種ワースト100」、日本生態学会が「日本の侵略的外来種ワースト100」というリストを作っている。これは、外来種の中でも、特に元々の自然や人の暮らしに大きな影響を与える外来種を選んで、注意を呼びかけているものだ。また、環境省が定めた「特定外来生物」については、国内での飼育や栽培、移動などが禁止されている。例えばグリーンアノールは、「日本の侵略的外来種ワースト100」で、しかも「特定外来生物」にも指定されている。

沖縄島のやんばるでは、固有種のヤンバルクイナを守るために、外来種のフイリマングースの駆除が行なわれているね。外来種の命が、固有種の命よりも軽いわけではないよ。でも、駆除をして外来種の数を減らすことは、世界でここだけにしかない元々の島の自然と生きものを守り続けていくために、必要なことなんだ。今、やんばるでは人が捨てたペットの猫や犬も増えてしまって、問題になっている。猫や犬は、人と一緒に暮らすように育てられた生きものだから、急に山の中に放り出されたら困る。やんばるの固有種たちも新しい天敵が増えて困る。私たちも猫や犬を駆除しなければならなくなる。こんなふうに、生きものの命をお互いにうばわないですむように、島によその生きものを持ち込まないこと!飼っているペットを絶対に放したり捨てたりしないこと!が大切なんだよ。


鹿谷麻夕 (シカタニ・マユ  しかたに自然案内)
東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばで海に興味を持ち、1993年に沖縄へ。以後、サンゴ礁の生物を学ぶ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の自然ガイドと環境教育を始める。2015年より、生物多様性地域戦略事業の広報資料作成、イベント・ワークショップの運営を担当する。しかたに自然案内代表。
鹿谷麻夕